2011年4月2日土曜日

内部被曝量は外部被曝量の9倍(改訂版)

日本にいる家族が許容被曝線量を超えないかとっても気になる。はじめ、ウィキペディアを見て判断の目安を計算した。


親、嫁(仮定)、国外から来ている人に対してそれぞれ、今後1ヶ月間平均で通常の130, 14, 3.5倍の放射線量にさらされ、事故が収束していない場合に避難を勧めたい。


最近、被曝には外部被曝と内部被曝があることを学習した。それぞれ、体外・体内にある放射線源による被曝だ。通常、全被曝線量の約7割は内部被曝だそうだ。よく知らないが、空間放射線量はだいたい外部被曝線量に等しいのだろう。全被曝量の約3割しか把握していないことになる。3割であっても、3:7という比率が変化しなければ、(はじめからそこまで考えていたわけではないが)、上の目安が使える。


 福島第1原発事故による内部被曝線量と外部被曝線量の比率は、通常(7:3)と同じだろうか?


もちろん、核種や化学種などによって変化するだろうが、汚染源は福島第1原発、測定場所は関東地方と決めておけば、ほぼ一定だろう。内部被曝の経路は、吸引(呼吸)と摂取(飲食)に分けられる。ちなみに、外部被曝は大地とそれ以外(宇宙線や空気)に分けられる。「内部被曝」でぐぐって最初に出てくるT-norfさんのブログ(の改訂版)では、吸引経由の内部被曝線量と空間放射線量比率は1:1と見積もっていた。実測値と呼吸速度、ICRP72の換算線量係数から計算しているので、信頼できそうだ。そこで僕は、摂取経由の内部被曝線量と外部被曝線量の比率を見積もることで、内部被曝量と外部被曝量の比率を計算した。


 アメリカの環境保護庁が放射能リスク評価のためのソフトウエア(CAP88-PC Ver. 3.0)を無料配布している。放射性物質の拡散をシミュレーションするためのものだが、地域住民の被曝量とその内訳や健康被害も見積もってくれる。内部・外部被曝線量の内訳まで見積もってくれる。そこで、条件を少しずつ変えて40回くらい計算し、結果から、内部被曝線量と外部被曝線量の比率を経験的に見積もった。内部被曝量の見積もりに使っているモデルは、EPA99という式と、ICRP72という定数表だそうだ。もちろん、EPA99の式から解析的に求められるだろうが、長い式なので間違わずに計算する自信がない。条件は、文末に示した。なるべく福島第一原発を再現したつもりだ。ただし、福島から東京までは約200kmだそうだが、このソフトウエアで計算できるのは最大80kmだった。また、シミュレーション時間は5年間が最短だった。この間、汚染物質の放出が、一定速度で続くことを仮定している。似たような目的のソフトウエアを、日本(SPEEDI)ドイツ(RODOS)でも見つけたが、公開されていないようだ。


 食料源を全て輸入にすると、当然、吸入経路の内部被曝を見積もっていることになる。この時、内部被曝線量の外部被曝線量に対する割合は、3割程度であった。食料源を全て自家製にすると、摂取経由の内部被曝線量を考慮したことになる。この時、内部被曝線量の外部被曝線量に対する割合は8倍程度であった。風向き、放射能雲の高度、放射性核種の放出速度の絶対値、及び汚染源からの距離(数十kmの範囲)変えても、割合はあまり変わらなかった。


比較

 CAP88-PC吸引経由の内部被曝線量は、T-norfさんの値(改訂版)1/3位だ。後者は、実測値と単純なモデルを使っているので、より信頼できるだろう。「誤差」の理由はシミュレーション時間(5年間)が長すぎることではないか?T-norfさんの値を使っても、吸引経由の内部被曝線量の割合が通常の約6割に減少した。計算誤差かもしれないが、吸引経由の内部被曝線量の割合は、放射能汚染が進むに連れて減少する傾向が出た。この原因は、時間とともに、放射性物質が大地に積もり、大地由来の外部被曝線量が増加する為だと考えられる。通常、大地由来の外部被曝線量は、全外部被曝線量の半分程度らしい。本シミュレーションでは、99.9%であった。現実は、T-norfさんと僕の値の桁が一致していることから、99%位ではないか?


内部被曝線量と外部被曝線量の比率

 摂取経由の内部被曝線量の割合は、通常より増加した。具体的には、自給自足の生活の場合、摂取経由の内部被曝線量の割合は、通常の約5倍であった。自給しない場合は、もちろん、産地の外部被曝線量に対する割合を考える。輸入品の汚染は無視してよいだろう。更に、輸入飼料で育った家畜は汚染が少ないだろうから、熱量ベースの自給率を使って、摂取経由の内部被曝線量の割合は外部被曝線量の約3倍、通常の約4倍となった。他に誤差の要因になる可能性があることが2つ思いつく。第1に、前述のとおり、土壌汚染を過大評価しているらしいこと。これによって、線量が過小評価されることはないだろう。第2に、農業などのモデルが日本の現実からかけ離れているかもしれないこと。特に、食料は肉と野菜と牛乳だけで、魚が入っていない。報道によると、海中の放射性物質は生物濃縮速度よりもずっと速く拡散するそうなので、肉と同じモデルを使っても過小評価することはないかもしれない。蛇足だが、このソフトウエアには産地の分布を考慮するオプションも付いている。


 以上から、 福島第1原発事故による内部被曝線量と外部被曝線量の比率は、4:1となった。内部被曝線量の割合は、通常の1.2倍であった。これは、摂取経由の内部被曝線量の増加と、吸引経由の内部被曝線量の減少(通常の約6)がうまく相殺したからだ。これが本当なら、上の「つぶやき」は、ほぼ正しい。しかし、困ったことに、2項が相殺するので、2項が足し合わされる場合より、計算誤差が大きく反映される。各項に数倍の誤差が有り得るのだから、「1.2」はとても誤差が大きいだろう。そこで、各項の時間スケールを考えてみる。食料の放射能汚染には、単に放射性物質で汚れているレベルと「沈黙の春」のようなことが殺虫剤ではなくて放射性物質で起こるレベル(生物濃縮)があると聞く。きっと、後者の効果のほうがずっと大きいだろう。だとすれば、摂取経由の内部被曝の時間スケールは、食物連鎖上で放射性物質が伝搬する速度(以下、「長期」と呼ぶ)である。一方、吸引経由の内部被曝の時間スケールは、放射性物質の拡散速度(以下、「短期」と呼ぶ)だろう。きっと、長期の時間スケールの方が短期の時間スケールよりずっと長いに違いない。だとすれば、内部被曝線量の割合は、「短期」的に減少し、「長期」的に増大する。従って、「短期」的には、内部被曝線量の割合は通常の「1.2」倍と見積もって、過大評価になることはあっても過小評価になることはあるまい。(僕は何をしているのだろう…)


 まとめると、少なくとも「短期」的には、内部被曝線量と外部被爆線量の比率は、通常とほぼ同程度と見積もっても、上の「つぶやき」の値を、過小評価をすることはあっても、過大評価することはない。上の「つぶやき」では、はじめの1ヶ月間を考えている。したがって、1ヶ月間が「短期」とみなせるなら、上の「つぶやき」は、ほぼ正しい。1ヶ月間が「短期」とみなせないなら、上の「つぶやき」は、正しいとは限らない。が、その可能性は小さいだろう。


 あえて、上の「つぶやき」と同じ形式で数値訂正すると、


親、嫁(仮定)、国外から来ている人に対してそれぞれ、今後1ヶ月間平均で通常の100, 10, 4倍の放射線量にさらされ、事故が収束していない場合に避難を勧めたい。


となる。有効数字1桁。ついでに、通常の放射線量をウィキペディアに記載されている全世界平均から、日本における値に改めた。ただし、この目安は役に立たない場合がある。「短期」の時間スケールが、1ヶ月間よりずっと長い場合だ。たとえば、福島から東京まで拡散するのに数ヶ月かかるなら、はじめの1ヶ月間より、2ヶ月目、3ヶ月目の方が被曝量が増えるかもしれない。


シミュレーションの条件

汚染源からの距離: 80km

シミュレーション時間: 5年間(最短)

風向き: 様々(カスタムモードで付属ライブラリから選択)

年間降雨量: 111cm (小数点以下を代入するとFortranエラー)

年間平均気温: 13.1

混合境界層高度(?): 1000m

絶対湿度: 9.09 g/m3

汚染源: 堆積、高さ50m, 直径92m, 1

放射能雲: 固定、混合境界層高度以下

食料源: 全て輸入または全て自家製、肉・乳牛密度と作付面積割合はデフォルト(計算に使わないはず)

放射性核種: I-131 放出速度Cs-13710倍、サイズ1、タイプF、化学種 微粒子

        Xe-131m 放出速度 0、サイズ0、タイプG、化学種 不特定(自動)

        Cs-137 放出速度 I-1311/10倍、サイズ1、タイプF、化学種 不特定

        Ba-137m 放出速度 0、サイズ1、タイプM、化学種 不特定(自動)

        Tc-99m 放出速度 I-1311/100倍、サイズ1、タイプM、化学種 不特定

        Tc-99 放出速度 0、サイズ1、タイプM、化学種 不特定(自動)

        Te-129 放出速度 I-131100倍、サイズ1、タイプM、化学種 微粒子

        I-129 放出速度 0、サイズ1、タイプF、化学種 微粒子(自動)

        Te-129m 放出速度 I-131と同じ、サイズ1、タイプF、化学種 微粒子

        Te-129 放出速度 0、サイズ1、タイプM、化学種 微粒子(自動)

        I-129 放出速度 0、サイズ1、タイプF、化学種 微粒子(自動)

        Te-132 放出速度 I-1311/10倍、サイズ1、タイプM、化学種 微粒子

        I-132 放出速度 0、サイズ1、タイプF、化学種 微粒子(自動)

時間ステップ: 1


追記1: 訂正後の「嫁」の数値を10倍に再訂正した。再訂正前の8倍は、食料自給率を考慮しない場合の値だった。

追記2: 結論(まとめると、…)の表現が不正確だったので、改めた。

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